色あせた翼 寄る心 裏章3
不足するものを補うのは本能だ
腹が減れば当然それを満たす
自分に不足するもの
それは真に覚醒するための
元は一つであったその片割れ
それを補おうと体は動く
自分の意思とは無関係に・・・
無関係?
この気持ちも本能によるものなのか?
どんな気持ちも心も
全てが嘘のような気がした
「おはよう、ランシーン」
まだ寝起きで意識のはっきりしていないランシーンに
優しく口付けをする
ランシーンは、くすぐったそうに、恥ずかしそうに
それでいて嬉しそうに反応し、身をよじり
ベッドの中に顔をうずめた
「おはよう・・・ございます」
ランシーンの翼は今ではもうほとんど白くなっていた
それに比例し、徐々に心を落ち着かせていったランシーンは
いろんなものに興味を持ち、それは何かとよく質問してきた
ランシーンにこうして会うようになる以前は、頭も良く、
策士なイメージを持っていたシロンは、そのことにとても驚いた
会社の事やそれに関することの知識は随分とあったようだったが
まさにそれだけ、という感じだった
知識の幅が狭すぎるのだ
恐らく今まで興味など無かったのだろう
レジェンズとしての使命を全うする事に必要な知識以外
特に求める必要など無いのだから
この会社に来るようになって、レジェンズの資料を読むようになった
そこに記述されているウィンドラゴンに関する資料を見ると
好奇心旺盛と書かれており、今のランシーンはそれにあたるような気がした
とりあえず落ち着きが無い
まるで子供にでも戻ったかのようだった
・・・いや、本当にそうなのかもしれない
自分も最初は何も知らなかったのだから
持っていたと思われる特殊能力に身を任せるように生きてきたのだろう
今のシロンには時々未来のものであろう映像が見えるようになっていた
そしてそこで行われている戦いの光景を見るたびに心が痛む
空耳とは思えない悲鳴が聞こえてくる・・・
このまま呆けてはいられない
刻一刻とその時は近づいてきているのだ
そのことを受け、ようやくランシーンのやろうとしていた事がわかってきた
自分たちを煽り、戦わせていたのは全て戦争の準備であり
力の覚醒のためだったと・・・
だが、どうしてもその気にはなれなかった
使命とはいえ、未来を映し出しているその場所
そこに納得できないものが二つあった
一つはサーガ達の悲しむ姿
そしてもう一つは・・・
「シロン、ここに描かれているものは何か教えてくれませんか?」
その未来に声の主の姿がどこにも見当たらなかった
答えは見つからずとも悩んだ
体を重ねるたびに失われていったランシーンの黒い翼
恐らく、いずれはいつか見た夢のように喰い殺してしまうのだろう
それがまるで当たり前かのように・・・
しかし今はそんな事はしたくないと思う、正直に
だが、その事でさえも仕組まれたものに思えてならない
好きだというこの心が・・・・・
本来ならば異常であるはずである事がそのことに拍車をかける
人で言うと、同性で近親相姦とかそういうのにあたるだろうから・・・
確かめたい思いと疼く体に身を任せ、何度もランシーンと体を重ねた
ランシーンも嫌がるどころか、寧ろ求めるようになっていた
その嬉しさに行為は激しさを増し
甘美な一時の中へと引きずり込まれる
だが、行為を終えた後はどうしても疑念が入り込んできた
その気持ちを振り払うようにランシーンを抱きしめる
強く抱きしめすぎたのか少し呻き声が聞こえてきた
そのことにハッとし、力を緩め、ランシーンの背を撫でた
そして、そういう毎日を繰り返すうちに
ランシーンの力が弱くなっていくように感じた・・・
このままではいけないと思い、ある算段をつけ、ランシーンを連れ出した
正直、このことを思いついたときには手遅れかもしれないと思ったが
それでもやって見る価値はあると思った
ウィンドラゴンが得意だとされる極寒の山岳地帯へ・・・
確かにその場所へ近づくたびに、身が引き締まる感じをうけた
ランシーンもそうであって欲しいが・・・
風が吹き荒れる目的の場所へたどり着き、ランシーンの様子を見る
ランシーンはあたりの景色を見渡し、息を大きく吸っては
満足感から出るため息をしていた
その事に一瞬笑みがこぼれてしまうが、遊びに来たわけではない
意を決し、自身を取り巻く風に緊張を持たせた
「シロン、どうしたのですか?」
その事に反応できたなら上々
まだチャンスは残っていると信じる
ランシーンを元に戻すためには、
レジェンズとしての本能を引きずり出せればどうにかなるかもしれないと考えた
つまり戦いによって無理やり覚醒に近づけようというのが狙いだ
こんな事はしたくねぇけど・・・
奥歯をぎっとかみ締め、翼を広げた
「ウイングトルネード!」
シロンはランシーンめがけて竜巻を繰り出す
反応できなかったランシーンは、直撃を受け、ゴツゴツとした岩に激突した
「けほっ・・・何を・・・・・かはぁっ・・・!?」」
休む暇を与えずにランシーンの腹部に拳をめり込ませる
「戦え、俺と」
何度も拳を打ち付けランシーンが岩に貼り付け状態になる
ダメージが余すことなくランシーンに伝わっていく
攻撃を止めると、ようやく岩に貼り付け状態だったランシーンの体は離れ、地面に倒れ付した
それでもまだ十分立てるはずだ
やはりというかなんと言うか、ランシーンの状態はよく分かる
うつ伏せに倒れているランシーンの首を掴み
自分の顔の高さまで持ち上げるともう一度こう言った
「戦え」
しかしランシーンは、突然の出来事にショックを受けるでもなく
恐怖するでもなく、ましてや怒りの表情を浮かべるでもなかった
ただ真っ直ぐシロンを見つめ、いつも自分に質問していた時と
同じ表情、純粋に分からない、という表情をしてきたのだった
「なんで、そんな事をしなければならないのでしょうか?」
そして、その表情から言葉から、元は一つの存在であるはずである
相手の心の内を理解するのは容易い
やめろ、そこから先を言うな、もっと辛くなる
「シロン、とても辛そうな表情をしていますよ?私も、戦うのなんていやですよ、貴方と・・・」
気がつけば、しっかりとランシーンを抱き寄せていた
だが、本当にこのままではいけないのだ
「ああ、辛い。だが、このままだと、もう会えなくなっちまうかもしれない。必要なんだ・・・戦う事が今のお前に」
しばらくそのまま時間だけが過ぎた
そしてランシーンのほうから体を離すと
ランシーンを取り巻く風の気配が変わったのが分かった
「わかり・・・ました・・・・・」
ランシーンは目を閉じ立ち上がり、翼を広げてふわっと一歩後ずさると
風がランシーンから風が広がり、あたりを包み込んだ
そしてランシーンの目が見開かれると
その瞳には金色の光が宿っていた
それを最後に、自分の意識もどこかへ飛んでいってしまった
気がつくとシロンはうつ伏せ状態で倒れていた
軋む体を持ち上げ、辺りを見回す
そこにはまた、ランシーンがうつ伏せ状態で倒れていた
その翼は、以前のように全て黒く染まっていた
「成功した、のか・・・?」
何が起こったのかわからなかった
だが、そんな事はどうでもよかった
ゆっくり歩み寄り、優しく抱き起こすと
ランシーンの首筋にそって顔をこすり付けた
「よかった・・・」
その行動、言葉にランシーンは反応を示し、ゆっくりと目を開けた
シロンは優しく微笑みかけたが、ランシーンの表情は
驚愕の表情に変わりそして
シロンの懐から飛び出し、一気に距離を開けられてしまった
ランシーンはしばらく困惑した表情でシロンを見つめていたが
やがて、歯を食いしばるような表情を見せたあと、飛び去ってしまった
あぁ、そういやぁそうだったな・・・
元に戻るとはこういうことか、とシロンは納得した
元は敵同士ともいえる仲だったのだから
今までのことを忘れてしまっているのだろうか?
それとも、少しは覚えているのだろうか?
それでもこれでよかったと思う
この先これであいつが消える事はなくなったかもしれないし
何より、今自分が持っている感情が本物であった事を大事にしようと思った
「また、近いうちに会えるか、な・・・」
しばらく時は過ぎ、シロンは新たに加わった仲間と共に居た
レジェンズクラブとかなんとか・・・今日はビーチバレーとか
何で俺が球拾い?
しばらく遊んでいると、あいつが現れた
同じ高さまで飛んで行き、対峙する
「何しにきやがった?」
「貴方を、倒しに来たんですよ」
「へっ、こりねぇ奴だな」
ランシーンに残っていたのは、俺と戦え、という事くらいなようだった
それ以外のことは、多分夢の事のように思っているだろう
戦いを通じ、レジェンズウォーへの準備は進んでいく
最近は、それをどう止めるべきか、頭を悩ませている
終