―依存―





「今日も、出かけてきますね」


ランシーンは最近よく出かける
その理由を告げないままに

それが本人もわかっているから
『今日も』、だ


決まって何かあった時ってのはランシーンはそれを察知して
一人出かけては、人知れずに解決し、帰ってくる

それがわかっているから不安も大きい

また無茶なことをやっているんじゃねぇかとか・・・
せめて相談くらいして欲しいものなんだが


「何所に、行くんだよ」
「ふふ・・・知りたいですか?」

「別に・・・手伝わなくてもいいのか?」
「ええ、それよりも貴方は居るべき場所にいてください」


こうした質問の答えを、既にランシーンは持っている
恐らくその中に俺が欲しい情報ってのは一切無いだろう

なんとかその真意を聞きだそうとはしてみるが
いつもランシーンは俺より一枚上手だ
長いこと共に暮らしていれば
それもわかるようになるかとも思ったが
実際のところはランシーンの誤魔化す技量を
ただ、増やすばかりだ


「別に心配をかけるようなことはしませんよ?」

「っ!誰がお前の心配なんかするかよ!」


それどころか、心はすっかり見透かされているようだし・・・


「相変わらず、素直じゃありませんねぇ・・・
まあそれがシロン、貴方らしいと言えば貴方らしい」
「うっ・・・」

そしていつものように俺は強引に抱き寄せられ
口を奪われる

ペースに乗せられないようにと最初は拒絶しようとしている手も
いつの間にかランシーンの背に手をまわし、抱き寄せてしまう

口が離れ、手が離れる。視線を感じる
頭の中が真っ白になり、顔が熱い


「いい加減、慣れないものなんですかねぇ?」
「う、うるせぇなっ!普通、慣れるもんじゃねえだろ!?」

「普通ではない、と・・・?」

「・・・ずりぃよ、お前・・・・・」


黒い翼をもつウィンドラゴン
その異形の姿から周りからはありえないだの
普通じゃないだの・・・

今の発言もそれを意識させてのことだろう

だが、その計算しつくされた発言の数々に俺は
心配させられる、惑わされる、溺れさせられる

元は一つの存在だったらしい俺達
いつかお前が目の前から消えてしまうのではないのだろうかと


不安に駆られ、今度は俺の方から口付けしている

再び口が離れると
更に抱き寄せ、温もりを感じ、胸に耳を当て、その鼓動を聞く

俺の刻む鼓動とは違うリズムを刻むランシーンの鼓動


「ランシーン、ちゃんとここに居るんだな・・・」
「ええ、いつまでも離れませんよ?・・・貴方の心から」

「その言い方がまずいっての・・・ちゃんと帰ってこい」
「そのつもりです・・・私のシロン」

お前の俺、か
そう言うならちゃんといつまでも
お前のものにしていてくれよ・・・?


「あなたのその恥ずかしそうな顔を見れるのを、楽しみにしていますよ」
「な、なんだよそりゃあ!こういう時に言うか?・・・まったく」


今回もまた、お前さんが更に一枚上手になっちまったみたいだな
これじゃあ心配する気も少し失せちまう

・・・それが狙いだということがばれていなきゃな




「あ〜あ、落ち着かねぇ・・・」


周りの奴らに少し出かけると伝え
とは言っても凄く近場なんだが・・・
まあ食料調達、他の採取に出かける

待ってるやつにできることってのは
やっぱり、飯の支度とか
疲れを取ってもらうための風呂の準備とか


主婦かよ・・・


とはいえ、いつ帰ってくるかもわからない馬鹿に
何をどう合わせればいいんだか・・・


ある程度下ごしらえと掃除を終わらせれば
あとは適当に風に当たりながら過ごす

その風の中にあいつの気配を感じることができるかもしれねぇから

だが、大事なことは何もしてやれていないと
考える時間ができると余計にそんなことを考えてしまう

いつもあいつの方を危険にさらしてばっかりだ


本当は一緒に行ってやりたい
その方が戦力的にもいいと思うんだが
ウィンドラゴンという立場がそれを許さねぇ

俺は未だ、『保護されるべき存在』だからな・・・

生存率が高くなるはずの共闘も
それを理由にあいつは断り続けている


実際はどうなんだろうな?
俺とあいつは元は一つの存在
その片割れが失われたら?
俺も消えてしまうんじゃねぇか?

それはそれで上等だがな



「そろそろ始めるか・・・」


飯の準備を再開し、風呂を沸かす


何故だか今日はもうすぐ帰ってくる気がする

あいつの気配を感じたとかじゃなく
風に唆された訳でもなく
ただ、もうすぐ帰ってくるような気がした


長年の勘、とかいうやつなんだろうな

いい頃合いだ
帰ってきやがったぜ
今日も、ちゃんと・・・

「し、シロン・・・?」
「心の準備くらいしてろって、バーカ・・・」

俺が飛びついたの支えきれないでやんの・・・

どれだけ心配しているかちゃんと分かっているのか?

お前が先に死んでも、結局は俺が死ぬのと変わらない
離ればなれなんだぜ?

「飯、出来てんぜ・・・」
「随分と準備の早い」
「あ、俺を支えきれないくらい疲れてるなら先に風呂か?」
「シロン・・・」
「へっ?」

おかえりの挨拶が効きすぎたか
あーあー、裏目に出ちまった

こんなんなるならまだ準備終えとくんじゃなかったな
飯が冷めちまう、な・・・・・





「なあ、ランシーン」
「・・・・・なんです?」

・・・もう身構えられちまった

「今度からは、俺も行く」
「何度も言っただろう」

ああそうだ、だがもう退かねぇよ

「それでもだ、周りは関係ねぇ」
「気持ちだけで動くな・・・」

それはどっちがだ、って話だよ

「俺は、お前がいつ死んだかもわからないまま
毎日飯作って帰りを待ち続けるとか、そういうオチは嫌だぜ?」

それでも、絶対諦めずに待つんだろうけどな・・・

「それでもそれを許すことはできない
それに恐らく貴方は強制的に連れ戻されるだけだ」
「ランシーン!」
「シロン・・・」

「頼むから離れないでくれよ・・・お前を待っている時間
会えない時間ってのは・・・」


本当に、お前がこの世に存在していないのと大差ねぇ・・・


「・・・今度、竜王に進言してみるといい」
「ランシーンっ!?」
「レジェンズウォーに備えての修練と言えば
いくらか通るかもしれない、だが、過度な期待はするな」

「ああ、ああ・・・!そうする!」
「全く、あなたを幸せにするというのは、とても大変そうだ・・・」
「俺を幸せにするための悩みと考えれば安いもんだろ?」
「貴方も随分と饒舌になった・・・」

そうしたのはお前だぜ、ランシーン

ようやく、お前の隣まで来れたような気がした
ようやく、ちゃんとした二人の時間が始まるんだ










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