互いに足りないもの


シロン「ランシーン、手合わせだ」
ランシーン「良いでしょう・・・」


レジェンズクラブ一同に招集がかかり
今ではダークウィズカンパニーの社長代理を務めているランシーンも
珍しく姿を見せていた

特に何をするわけでもないクラブ活動なだけあって
暇そうにしているシロンがランシーンに対して
勝負を仕掛けることは珍しくない事になっていた


ランシーン「懲りない人ですねえ・・・あなたも」
シロン「さっさと始めんぞ」


そう言うといつもの様にグローブをぎゅっとはめ直す

この周りを巻き込みかねない唐突で傍迷惑な手合わせを
初めの頃こそ咎める者もいたが
今は止めようとするものは誰もいない

むしろ今では増えてきているクラブメンバー達にとっては
より優れた戦い方を学ぶチャンスでもあり
中にはそれを楽しみにしている者さえいる


2竜は同時に飛び立ち距離を取る

そして合図も前触れもなく
戦闘が開始される

最初はお互いの力量、状態を確かめているのか
戯れ程度の風で開始された

その姿はまるで舞い、踊るかのようで―

その行方を見守る者たちの頬をかすめる心地よい風


徐々に風は勢いを増し、塵を巻き上げ
風が視覚的にも見えるようになっていく

その隙間を縫うようにして戦う姿に
感嘆の声が上がる


激しさも最高潮に達すると変化が表れ始めた


シロン「ぐっ・・・」


シロンが風に巻き込まれその動きを鈍らせる
それを見逃さずランシーンが重い一撃を入れていく


シロン「まだだっ・・・!ぐはっ!?」


その後は一方的だった
ひるんでいる間に距離をとり反撃を避け
さらにその反撃の隙を突いて風で動きを抑え込む
後は死角に回りこみまた重い一撃を入れる
その繰り返しで徐々にシロンの体力を奪っていった


シロン「くっそ・・・ぅっ!・・・・・・・・ぁっ・・・」
ランシーン「今日はおしまいです」

また一撃入れられると思ったその攻撃は止められ
そう告げられ肩を軽くぽんっと叩かれる


シロン「はぁ〜・・・つぇ〜のなお前・・・」


「部長〜!」

勝負が終わったのを見計らったかのようにそれは告げられる
とある場所でレジェンズ同士での争いが起きているという報告だった

シュウ「ほいじゃ!行きますかっ!」


力のある四大レジェンズを有するレジェンズクラブは
こうしたいざこざを解決する役目を自動的に負う事になっていた
解決するごとにメンバーも増えていき、今では知名度も相当高い

以前にも増して危険の渦中に入ってしまっているサーガたちを
シロンを始め皆、心配するのであった

シロン「今回も結構危険だぜ?黙って帰りを待っていることをお勧めするけどな」

その方が安全だ、と心のそこから思う

シュウ「んな事言うなって!部長が黙って待ってるわけには行かないだろ?」

そんなことを言いながらシロンの体をバシバシ叩く

シロン「はいはい、わかったよ!また泣きべそかいても知らないからな」


状況は思ったよりも悪かった
人間の町にもある程度被害が出ている

早速両陣営にガリオンとランシーンが交渉しに行ったが
交渉は決裂
やむを得ず実力行使でこれを鎮圧した

シュウ「いやあお疲れさん!流石レジェンズクラブ委員!」
シロン「お前さっきまでただ泣きじゃくってただけじゃねえか・・・
相変わらず調子のいいやつだ」

だが、今回もサーガ達は無事であった
その事にほっと胸を撫で下ろす


「ふざけんじゃねぇ・・・結局実力行使じゃねえか・・・!」

突如声が発せられその方向に一同視線を移す

「ぶっ飛ばしてやる・・・ぶっ飛ばしてやるぞお前ら!」

そう怒りをこめた発言の後、体から光が発せられ
周囲の彼の仲間を巻き込んでいく

グリードー「まずい、暴走だ!」
ガリオン「止めるぞ!」

しかし繰り出された攻撃は光に爆ぜられる
そして光の中から姿を現すエレメンタルレギオン

シロン「風のサーガ!タリスダムだ!・・・はっ!?」

カムバックすら間に合わない程の時間
エレメンタルレギオンから攻撃が発射される
町の一つや二つ、簡単に吹き飛ばすその波動が向けられた先は


風のサーガ


シロン「シュウ!」

油断していた、というのが正直正しい
戦いの中でサーガを守る為には
それは一時でも許されないというのに

その為に修練を何度もした
何度もランシーンに負けて恥をさらしながらも
それは守る為
守る者を失ってしまったら
この破壊が取り得の力をどこに向ければいい?

シロン(間に合えっ!・・・ランシーン!?)

気がつけばシュウの目の前に立ち迎撃体勢を完了している
正に自分がとるべき行動をあっさりと・・・

そんなことが脳裏を掠めるが今はシュウを守ることが先決
だがタイミング的に自分にできることは身をもって盾になる事
風の力を溜める余裕さえなかった
いくらランシーンが待ち構えているのだとしても
エレメンタルレギオン相手に打ち勝てる見込みはほとんど無い
2竜でなら話は別だったかもしれないが

ランシーン「うぉおおっ!!」

シュウにシロンが覆いかぶさるのと同時にランシーンの咆哮がこだまする
そしてぶつかり合う音と衝撃
ぎゅっとシュウを抱え、その攻撃が自分にぶつかるのを覚悟する

・・・だが、ついにその瞬間は訪れなかった


シロン「助かった・・・のか?」


辺りを見回すと、へたれ込んでいるランシーンと
そのすぐ目の前の地面に開いた大きな穴
そしてその穴の先には力を使い果たしてレギオンが解除され
気絶している連中

誰もが最悪の事態を覚悟した
だがそれを阻止したランシーンに一同は驚愕の視線を向ける
そしていつのまにやら皆から祝福の声がかけられた

シロンはその様子を見つめ、強く拳を握った



シロン「ランシーン、勝負だ」

数日後、またいつものようにランシーンに声がかけられる

ランシーン「? 無論・・・」


しかしいつもとは違う何かをランシーンは感じ取った
いつもの『手合わせ』という言葉から『勝負』
という言葉に変わっている

だがシロンが望むならば断らない、断れない
違和感があるならばなおさらそれを確かめなければ
後々どうなるか分かったものではない

いつものように2竜同時に飛び立つ


シュウ「なんか・・・違くね?」


戦闘が開始されると同時にシュウがそう声を発する

シュウ「なんかこう、ピリピリするっていうかさぁ・・・」
グリードー「わかるのか?・・・ぅおっ!?」

頭上を掠める竜巻
明らかにいつもと様子が違う
いきなり本気モードのようだ

シロン「ぅおらぁ!」

段々と状況を飲み込む一同
いつもと違うのはシロンのほう
繰り出される風はほとんど力任せによるもの
そのこともあってか隙が大きく
いつも以上に一方的な展開になっていく


シロン「く・・・そ・・・・・」
ランシーン「どうしたのですか?シロン・・・」

いつもの様に肩を軽く叩いて終了の合図

ランシーン「いつもの貴方らしく・・・ぐはっ!?」

しかしかけられた声はしっかり力のこめられた一撃によって阻まれる

シロン「うるせえんだよ!」

更に荒々しさを増す風
その攻撃に的確さなど微塵にも無い
だが先ほど強烈な不意打ちをくらったランシーンには
よけるのが精一杯だ

シロン「いつもお前は・・・そうやって!!」

限界まで力を溜め、放たれるウィングトルネード

避けるのは容易であった
しかしランシーンは何かを覚悟したかのようにその攻撃を見据え
迎撃の態勢をとる

ランシーン「ウィングトルネード!」

ぶつかり合う竜巻と竜巻
しっかりと力を溜め放ったシロンの竜巻と
不意打ちをくらったまま、まだダメージの残る
状態のままの迎撃という形のランシーンの竜巻

しかし、シロンの竜巻はあっという間に押し返され
勢いを失うことなく竜巻はシロンを襲った

シロン「ぐぁあああ・・・!」

落下していくシロンをランシーンは抱きとめる
薄っすらと目を開けるシロン

そのシロンに微笑を向けるランシーン


しかし次の瞬間にはその表情は一変し
怒りのこもった表情でシロンを殴り飛ばす

ランシーン「貴方はっ!今何をしたか分かっているのですか!?」
シロン「!?」

ランシーンの視線はレジェンズクラブの一同が集まる
秘密基地の屋上に視線を移す

そう、ランシーンが覚悟を決め、かわさずに迎撃したのは
竜巻が彼らを巻き込む位置だったからに他ならない

シロンはその事実に身震いし、頭の中が真っ白になる

シロン「くそぉっ!」
ランシーン「シロン!」


その場を全力で離れるシロン
それを追いかけるランシーン

やがて2竜は人気の無い荒れた廃工場にたどり着いた


シロン「ここなら、ちょいと間違っても問題ねぇよな・・・」
ランシーン「シロン・・・まだっ・・・!」

再び戦闘は開始される


シロン「悔しいんだよ・・・!」
ランシーン「なに・・・?」

シロン「お前は頭も切れるし・・・実力もある!」
ランシーン「それがどうした?」

シロン「状況判断も完璧で・・・!」
ランシーン「だからなんだと言っている!」

ランシーンの一撃がシロンを捉え
ぶっ飛ばされダウンする

シロン「・・・俺は劣っている・・・お前に何もかも!」
ランシーン「くっ!?」

発射される羽のダーツの嵐をぎりぎりよける

シロン「俺はレジェンズだ!元々は戦うために生まれてきたならば
俺はあいつを・・・シュウを守りたい!それしかできねえ!だけどっ!」

シロンは次々と竜巻を起こし波状攻撃をかける

シロン「その事に関してお前は一枚も二枚も上手だ!実際お前は
エレメンタルレギオンに打ち勝つほどの力を持っている!
あいつの傍に居るべきなのはお前の方なんだ!だから悔しい!
守ってやるくらいのことしかしてやれないのにその力が足りないのが悔しい!」

そこまで言うとシロンは膝を着き、両手を着く


ランシーン「そういうことですか・・・」
シロン「ああそうだよ・・・!」

ランシーン「本当に馬鹿ですね・・・本当にっ!」
シロン「ぐあっ!?」

ランシーン「それほどのものを持っていながら!
あれほどサーガの傍にいながら!力が無いのが悔しい?
一体何を言っているのですか貴方は!?」

今度はランシーンが攻め立てる
いくつもの竜巻がシロンを襲うが何とかそれを避ける

ランシーン「確かに守るための力は必要だろう!
だがそれはお前も十分に持っている!
非常に腹立たしい!お前は見えてないだけなのだ!!」

どんどん追い討ちをかけるランシーン
だがシロンはすぐに違和感に気がついた
今のランシーンはあまりにも無防備だった
シロン自身が驚くほどの隙をランシーンは見せている

そして今、今までで最大であろう隙を見せる
攻撃をためらうほどの・・・

シロン「ウィングトルネード!」
ランシーン「うぉおおっ!!」

シロンの頭でフラッシュバックが起きる

エレメンタルレギオンを防ぎきった時と同じ咆哮に威圧感
繰り出された竜巻に自然と体が防御体制をとる

間違いなく、俺の竜巻は打ち負ける


しかしぶつかり合った竜巻は相殺するどころか
シロンの繰り出した竜巻を受けきれずに
ランシーンは吹き飛ばされてしまった

シロン「・・・っ!?お前また手加減なんかしやがって!」

本当は手加減などしてないように見えた
自分の発した言葉に違和感を感じつつもぶつける

ランシーン「本当に・・・何も分かってないんですねえ・・・」
シロン「何っ!?」

ランシーン「実際の所、実力差なんてほとんど無い・・・結構相手きついんですよ?」

そう言ってくっくっくと笑う

シロン「嘘をつくな!お前はエレメンタルレギオンにも―」
ランシーン「聞けっ!」

廃工場内にランシーンの声が響き渡り、その後、静寂が訪れる
静かにランシーンが語りだす


ランシーン「私が過剰な力を出した時の状況を覚えていますか?」
シロン「・・・いや、言ってることがわからねえ・・・」

ランシーン「エレメンタルレギオンの力と互角だった時も
貴方の全力のウィングトルネードに軽く打ち勝った時も
その傍には風のサーガが居た」
シロン「それがなんだってんだ・・・!?」

ランシーン「あの力は私だけのものではない・・・実際の力は
先ほど打ち負けたあの程度のものなのですよ?危機的状況で
力を貸してもらえたからあれ程の力が出せた」

シロン「なら尚更お前の方が相応しいじゃねえか・・・」
ランシーン「貴方は見えて無かっただけです・・・あれが全力ではない」

シロン「全力では・・・ない?」
ランシーン「正しく言うならば、引き出せなかった、というところでしょうか」

ランシーンは上を向き瞳を閉じる

ランシーン「どうしても貴方には勝てない部分がある
それは心と心の触れ合いだ・・・元々お前と私は
心と本能で分かれているようなものだ・・・だからお前は
サーガとの心のつながりを強く維持できる。その想いこそがサーガの力を
最大限まで引き出すことができる。そして、それこそが
真に彼らを守ることに繋がる・・・」
シロン「でも・・・やっぱりそれは確実な状況判断があってこそだ」

ランシーン「欲張りですねぇ、貴方は・・・
もしも、戦いや本能を大部分が占めている私が
そういう部分で貴方に負けてしまっていたら、それこそ私には何も残りません・・・」
シロン「ランシーン・・・」

ランシーン「貴方のその目標に向かっていける心が羨ましい・・・
いや、羨ましいかと思っているかも定かではない
私は今まで役目を遂行することだけ考えていた
その役目が消えた自分に残るものは空虚感だけだった・・・」
シロン「ランシーン!」

気がついたときにはシロンはランシーンに抱きついていた

ランシーン「そうです・・・貴方にはそれがあります。他を重んじる事ができる心が・・・
私は他を助けるという事で役目を、生きる実感を得ることができるなど思いもしなかった
私に足りないものをお前は持っている・・・だから先ほどは腹が立ちました」
シロン「悪かった・・・」

ランシーン「シロン、力が足りないと感じ、
それを欲するならば私はいつでも力を貸します
それが貴方の心を満たすならばこれほど嬉しいものはない」
シロン「ああ、いくらでも頼んでやるさ!
お前が空虚感を感じないくらい、それを感じる余裕が無いくらいに・・・!」




シロン「ランシーン」
ランシーン「わかりました」

グリードー「おいおい、いい加減にしろよ?」
ガリオン「今回は大丈夫であろうな・・・?」
ズオウ「む〜・・・」

久々に上がる非難の声

シュウ「大丈夫だって!」
メグ「本当に?」
マック「シュウが大丈夫だって言うなら大丈夫なんだな!」
ディーノ「本当に大丈夫なのかい?」
シュウ「大丈夫ったら大丈夫なの!」

ランシーン「実に不思議な子だ・・・分かっているのか分かっていないのか・・・
どちらにせよ貴方ももう少し風のサーガを信用してはどうですか?」
シロン「・・・違ぇねぇな
最近は自分が何とかしなきゃとか思い込んでいたからな
こいつもいる、お前もいる、みんな、いる」

ランシーン「それでこそ貴方です。さあ、始めましょうか」
シロン「言われなくてもっ!」


今日も風と風はぶつかり合い、語り合う
それが不毛なことだとしても
互いの隙間を埋めるこの感覚だけは
何物にも代えがたい







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