【流れ星】
泣く仔も黙ると言われている、ブレイズドラゴンのグリードー。
次代のヴォルケーノキングドラゴン最有力候補。
知識も力量もカリスマも十二分に備えた、まさに竜王の器を持った戦士。
と、誰もに言われているそんな俺様の恋人が・・・
「グリード〜v」
まだ成竜前の仔竜だとは、誰も知らない。
己の膝に乗って腕の中で幸せ一杯の表情で尻尾を軽く振っている白いドラゴン。
そう、ウィンドラゴンのシロンだ。
ネクロムの一部による『ウィンドラゴン狩り』。
残酷かつ残忍で非道な手口で次々とウィンドラゴンはその尊い生命を奪われたと聞いた。
ただでさえレジェンズで最も数が少なかったウィンドラゴン族は、トルネードキングドラゴン以外は絶滅し、風の竜王自身も行方不明になった、と。
だからこそ、己の腕の中にいるウィンドラゴンの仔竜は、必然的に次代のトルネードキングドラゴンということになる。
まぁ正直、そんなことは別にどうでも良いんだが・・・
「ねぇねぇ、グリードー」
「ん?」
「今日は“聖夜”だよ?何か欲しいものない?」
「もうそんな時期か・・・」
問題はコレだ。
ウィンドラゴン族独特の習慣なのか、風属性独特の習慣なのかは分からないが・・・俺様の知らない習慣を持っているシロンに最初は戸惑った。
今では慣れて、シロンの好きにさせている。
それに、ネクロムが血眼になって必死に探しているシロンを護ることが、俺様の最優先事項。
まっ、ネクロムに限らずシロンに手を出す奴は問答無用で焼き殺すが。
「グリードーってば、聞いてるの?」
己の約半分しかないシロンは、無邪気に小首を傾げて聞いてきた。
出会った頃より一回り大きくなったが、それでもまだ子供。
本当に自分の趣味を我ながら疑いそうに・・・いや、何度疑ったことか。
「シロン」
「僕?ダメだよ。僕はとっくにグリードーのモノだもん!もうあげるとこなんて残ってないよ。他にない?」
・・・俺の理性を試しているのか?
純粋な丸い青い瞳で上目遣いに睨まれても可愛い、おまけに頬をぷくっと膨らませているからより可愛いだけ。
前言撤回。
やはりさすが俺様、見る目は確かだ。
仔竜でこれだけ可愛いんだから、成竜になったら絶世の美竜になること間違い無し!
もしかしたらレジェンズで最も美しい種族であるウィンドラゴン族の中でも器量良しかもしんねぇしな。
「グリード〜?」
「・・・よし、今日の寝床場所決定」
「ぇっ!?ええ??僕、もう飛べないよ〜!」
「大丈夫だから安心しろ」
さっさと抱き上げて立ち上がり、星空へと飛び立った。
腕の中でシロンは綺麗な星空に両手を伸ばして喜びはしゃいでいて、危なっかしいことこの上ない。
「綺麗な星空だね〜。手を伸ばしたら届きそうだよ♪」
「そうだな」
「わぁっ!あそこに三日月があるよ、グリード〜」
「そうか」
「凄く細い三日月・・・なんか線みたい」
「そうだな」
「あっ!流れ星!!」
「そうか」
「早くお願いしなきゃっ!」
「そうだな」
「えっと、早く大きくなれますように。風の竜王様が早く見付かりますように。グリードーとこれからも一緒にいれますように」
「そうか」
「・・・あ・・・間に合わなかった・・・」
「そうだな」
「もう一回流れないかな?」
「そうか」
シロンの話を適当に聞き流し、目的地へと全速力で飛んだ。
成層圏はネクロムに見付かることは無いが、ヴォルケーノの俺様でさえ長時間飛ぶのは、正直かなりキツイ。
さっさと到着して回復し、いつでも絶好調に戦える状態にしねぇと。
っと、そうこうしてる内に目当ての場所について、急降下してそこに降り立った。
一面黄色い花の絨毯で、腕の中のシロンは驚いて目を丸くしている。
「す、ごい・・・凄い!星の中にいるみたい!」
ちょいとキツかったが、この満面の笑みを見れたからまぁ良い。
シロンを腕から放してやると、シロンはアッチコッチへと飛んで花の海で喜びはしゃいだ。
ここはパーンとカーバンクルの管理する場所で、ネクロムは滅多に近寄らない。
何よりも視界を遮るものは何もない丘続きのこの場所なら、ネクロムの野郎が来たらすぐに分かる。
久し振りの安眠確保に小さく溜息を吐くと、シロンが飛びついて来た。
「グリード〜v」
「ん?」
小揺るぎもせずにしっかりと抱き止めてやると、シロンは満面の笑みを浮べて嬉しさ一杯に尻尾を振った。
可愛くて頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を閉じて身を寄せて来た。
全く・・・発情期じゃなくて良かったぜ。
「グリード〜って、流れ星みたいだね」
・・・おい。
「流れ星?」
「うんvだって流れ星は願い事を叶えてくれるんでしょ?昨日の僕の願い事が叶ったんだもん」
「どんな願いだ?」
「『いつかグリードーと一緒に星の海を飛びたい』って、昨日の流れ星にお願いしたの」
「そうだったか・・・俺が流れ星なら、叶えるのはお前の願い限定だな」
最も、最初っからシロン以外の奴の為にこんな苦労する気は毛頭も無いが。
それにしてもこの俺様を流れ星に例えるとは・・・我ながら怖ろしい流れ星だ。
「じゃあ・・・『これからもグリードーとずっと一緒にいられますように』」
「それは願う必要無い。俺はお前を一生手放さないから、覚悟しろ」
「うん♪」
優しく笑って抱き上げ小さくキスしてやると、シロンは頬を染めて最高級の笑顔で頷いた。
ウィンドラゴン族にとって“聖夜”がどんな意味を持つのかは知らねぇが、俺様にとってはシロンへの想いを伝える日だ。
いつかシロンが成竜になったその時は、『愛してる』と想いを込めて囁いてやろう。
言葉と態度で濃厚に俺様の気持ちを伝えてやろう・・・この愛するシロンに。
「グリード〜大好きv」
「あぁ、知ってる」
「大好き〜v」
ギュウゥ〜ッと首に両腕を回して抱き付いてきたシロンを優しく強く抱き締め返して、空を見上げた。
綺麗に輝いている満天の星々に、思わず願った。
俺様の理性が保っている内に、シロンが早く成竜に成長するように・・・。
一日も早く、蛇の生殺しのお預け状態から脱却できるように・・・。
己の腕の中で眠った愛し仔の額にキスし、尾の先の炎を消してその場に座った。
何度かシロンの額に頬に口元にキスした後、己の翼を包み込むようにして拡げシロンをしっかりと強く抱き締めて、目を閉じた。
黄色い花でできた星の海の中に浮かぶ炎の玉もどきを、本物の星々が優しく見守っていた・・・・・・。
End