たとえ、ハムスターのようなねずみのような姿でも。

たとえ、しばらく本来の姿に戻れないとしても。

たとえ、何があったとしても。


この状況が幸せだと思える。





秘密基地の丸い窓。

その窓枠に小さな飛行帽と手袋をしている白いハムスター・・・もとい、ねずっちょの姿があった。
すでに定位置となったその場所で風を静かに感じながら、ねずっちょ・シロンはずっと空を見つめていた。

「・・・GA?」




(From here we are tuned into Mouse Language. ここからはネズミ語版でお送りします。)




「・・・ん?」

ねずっちょ・シロンの視線の先に、小さな黒い点が姿を現し、シロンは身を乗り出した。
深緑のチョッキを着た黒いハムスター・・・もとい、わるっちょ・ランシーン。
その姿がハッキリと見えてくると、ランシーンが自分の身体より大きな紙袋を持っているのに気付いた。

「ただいま、シロン」
「おかえり〜♪って、その袋は何なんだ?」
「ちょっとした戦利品ですよ、お土産を兼ねたね」

わるっちょ・ランシーンが自分の隣に降り立ったのと同時に、ねずっちょ・シロンは飛びついてランシーンの帰還を喜んだ。
ランシーンは苦笑しつつもシロンを抱き締め返し、自分の背後の紙袋を睨むシロンに不敵な笑みを見せた。
だが、シロンからは予想通りの反応は返って来ず、ただ自分に抱きついたまま黙っているシロンにランシーンは首を傾げた。

「・・・シロン?」
「・・・・・・怖かった・・・」
「ぇ?」
「・・・目が覚めた時・・・傍に、お前がいなかったから・・・」

わるっちょに抱きついて震えるねずっちょ、もとい、ランシーンの腕の中で震えるシロン。
自分の肩口に顔を埋めて涙声で話すシロンの背中を、ランシーンは優しく撫でた。

「・・・すまなかった」
「オレの知らない内に、どっかへ行くな!心配するじゃねぇか!!」

開き直ったのか、ランシーンの正面から睨むシロン。
上目遣いで潤んだ瞳で睨まれても、ランシーンにとっては可愛いだけ。
むしろ理性の箍が飛びそうになって、内心で葛藤しているくらいだ。

「私が悪かった・・・だから泣くな、シロン」
「な、泣いてねぇよ!」
「そうか?」
「んっ、あぁ・・・みっ、土産って何なんだ!?」

シロンは目尻に浮かんだ涙をランシーンに舐め取られて顔を赤らめながらも、無理矢理話題を転換して濃密になりそうな甘い空気を紛らわせた。
ランシーンは少し不服そうになりながらも背後に振り返り、紙袋を横に倒して破った。
そして見えたものに、ねずっちょ、もといシロンは瞳を輝かせた。

「ドーナッツ!」
「お前の好きなチョコレートドーナツにトッピングがかかったものだ。前に散歩した時に『食べたい』と言っていたでしょう?」
「覚えていてくれたのか・・・サンキュー、ランシーンv」
「礼なら言葉でなく態度で・・・」
「美味い♪」
「って、人の話は最後まで聞けっ!」

わるっちょ、もといランシーンに礼を言った瞬間には、シロンはドーナッツに飛びついて齧りついていた。
自分の身体の3倍はあるドーナッツに一生懸命に齧りついて、とても嬉しそうに食べてるねずっちょの姿は凄まじく可愛らしい。
ランシーンはその見ているだけで癒され微笑ましいと思える光景を、優しい笑みを浮べて見守った。



幸せそうに嬉しそうに食べるシロン、その笑顔を見れただけで、店からドーナツを盗んだ時の苦労やネコとの激しい追走劇などの並々ならぬ苦労も報われるというものだ。



シロンはランシーンが甘い物が苦手だと知っているから、ランシーンにドーナツは勧めない。
そしてだからこそ、自分は絶対に食べないドーナツを持って帰って来たランシーンの気持ちが嬉しくて堪らなかった。





優しい微風が吹く丸い窓枠で、のんびり穏やかな時間が流れる。





数十分後・・・





ドーナツを食べ終わったシロンは、丸いおなかを上にして横になっていた。

「美味かった〜v」
「それは良かった・・・ところで、シロン?」
「ん〜?」

わるっちょはねずっちょに覆い被さるようにして顔を覗き込み、そっと頬を撫でた。

「そろそろ良いでしょうかねぇ?」
「何が?」
「惚けるつもりか?私を誘うようなポーズをしておいて・・・」

その言葉にハッと気付くが、時既に遅し。 ランシーンはシロンを舐めるように見ると、そっとその首筋に顔を埋めた。

「シロン、良いですよね?」
「んっ・・・ランシーン・・・」

シロンはランシーンを潤んだ瞳で見上げ、そっと小さな両手をランシーンの胸に伸ばした。
ランシーンは不敵な笑みを浮かべ、シロンをキツク抱き締めた。

「愛しています、シロン」
「・・・オレも・・・」
「では、頂きますv」
「・・・・・・」
「?・・・シロン?」

わるっちょはねずっちょからの反応が無いので、不思議に思って少し身体を離してシロンの顔を覗き込んだ。
ランシーンの腕の中でシロンはもう夢の世界へと旅立っていた。
安心し切って幸福そのものの、これぞまさしく“天使の寝顔”だと断言できる程の、見てるだけでも癒される無邪気な寝顔。
最初はガクッと肩を落としたランシーンは苦笑しつつも、その寝顔に癒されて深い笑みに変えた。
最愛の存在がこれ以上ない程に無防備な姿を自分の腕の中で見せてくれることに、自分の腕の中で安らいでリラックスしていることに、 あたたかい想いが胸に満たされてゆくのを感じた。

「シロン・・・愛している、心から」

ランシーンはシロンに優しいキスを何度か贈ると、そのまま抱き締めて時折優しくシロンの頭を撫でた。
たまに寝言で「ランシーン、好き」とか「ランシーン大好き」など可愛らしいことを言いながら、無意識に擦り寄ってたまに頬擦りしたりする シロンに、言葉にできないほどの嬉しさを感じた。
穏やかで優しい微風を感じながら、時々思い出したかのようにシロンに小さくキスをしたりそっと撫でたりしながら、 ランシーンは幸福感で満たされていた。





たとえ本来の姿でなくても。

たとえ本来の力が発揮できなくても。


この平和で愛に満ちた生活に、心から幸せだと思える。




これからも最愛の存在と共にありたい。

それは互いに想う、同じ願い。


“どうかこれからも永遠に一緒に・・・”


寄り添いあった2匹を、優しい風が包み込むかのように吹き抜けていった。










End


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