幻夢




消えていく・・・


消えていく・・・




敵の一撃を受けてしまった風の竜王に気を取られた、その一瞬の油断が、命取りになった。

ヤツの攻撃が直撃するかと思ったその時、貴方が身を挺して私を庇った。


闇に飲み込まれ、段々とその輪郭がぼやけていく。




――――いくないくないくないくな!

――――私をおいていかないでくれ!!

――――貴方を失ったら、私は・・・!




必死に名を呼び手を伸ばすが、貴方には届かない。

私の名を呼び手を伸ばす貴方は、頼む、と言って苦笑する。

私は涙を流して拒否し、貴方の名を泣き叫びながら貴方の元へと必死で飛び手を伸ばした。

後少しで触れられるのに、貴方の姿は、闇に消えてしまった・・・




『・・・ン・・・シロン・・・』
『いくな!待ってくれ!』


――――最愛の・・・魂の半身の貴方を失ったら、私は生きてなどいけない!


『・・・シロン・・・』
『いくなーっ!』


    ――――ッ!!








「シロン!目を醒ませ!!」
「んっ・・・?」

衝撃と共に呼ばれたのを感じて、そっと瞳を開く。
涙でぼやけてはいるが、目の前に心配そうなランシーンの顔が見え、シロンは小さく安堵の溜息を吐いた。

「・・・ラン、シーン?」
「そうだ、私だ」
「オ、レは・・・」

ランシーンはシロンを腕に抱き締め、そっと丁寧に髪を梳いた。
シロンはその優しい感触に身を委ね、気持ち良さそうに瞳を閉じて、ランシーンの胸に顔を埋めた。

「お前が魘されるなど・・・どんな夢だったのだ?」
「・・・ゆ、め・・・だった、のか?」
「シロン?」

詳細は思い出せないが、さっき見た夢を思っただけで身体が震える。
目の前の逞しい胸板に縋りつき、シロンはまた涙を流した。
ランシーンはシロンを強く抱き締めると、そっと涙を舐め取った。

「怖がらなくて良い、シロン。私はお前の傍にいる」
「・・・もう・・・オレを置いて行かないよな?」
「あぁ。二度とお前をこの腕から放さない。たとえお前が暴れようと嫌がろうと、絶対に放さん」

シロンの潤んだ瞳を射抜くように強い意志を宿した眼差しで見つめ、ランシーンは断言する。
その傲慢とも言えそうな言葉にシロンは頬を染め、嬉しそうに微笑を浮べた。

「また置いていったら、許さねぇからな?約束できるか?」
「あぁ。約束だ」
「ランシー・・・んっ」

未だ不安が残っているのか、再び涙を浮べるシロンにランシーンは口付ける。




深く乱暴にシロンの口内を舌で蹂躙しながら、ランシーンは瞳を細めて翻弄されるシロンを見つめた。

頬を染めて閉じた瞼の端から涙が流れ、それでもどこか嬉しそうに自分を受け入れるシロン。
先程シロンが寝言で絶叫して呼んだ自分以外のドラゴンの名前は、ランシーンの記憶には断片としてしかない。
だからこそシロンを失うかもしれない危惧を、ランシーンは抱く。


その記憶の本来の持ち主は・・・カネルドウィンドラゴンなのだから。




「私もお前と同じ夢を見れたら良いのだが、な・・・」
「・・・ラン、シーン?」

荒い呼吸を必死に整えるシロンは、クッタリと脱力して全身をランシーンに委ねている。
ランシーンはシロンの目元に口付け、柔らかな身体を力一杯に抱き締めた。

「ちょっ・・・く、苦しいっ」
「どんな夢を見たのかは知らないが、私は決してお前の傍を離れはしない」
「ランシーン・・・」

シロンの目尻に唇を寄せ涙を舐め取り、そのまま頬へ首筋へ唇を滑らせる。

「ずっと・・・オレの、傍にいてくれ・・・」




『・・・いつか・・・また・・・』




「え?」
「・・・シロン?どうした?」

ふと脳裏を過ぎた言葉に、シロンは驚愕の表情を浮べる。
ランシーンは顔を上げて心配そうにシロンの顔を覗き込んだ。

「い、や・・・何でもねぇ、みたいだ・・・」
「・・・そうか・・・」

シロンはランシーンの首に腕を回して肩口に顔を埋めて縋りつき、ランシーンはそんなシロンを強く抱き締める。

「・・・愛している、シロン」
「・・・ランシーン・・・オレも・・・」

見つめ合い、再び口付けを交し合う。








2頭の影が一つになるのを、静かに月が見守っていた・・・。










End.



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