―忙殺の風―



古今東西過去未来。
一年の終わりと始まりを兼任しているその日は、上に立つ者にとっては忙殺される日となるもの。
それは属性や種族など関係無く、誰もが痛感する事実。

だが、それでも例外はある。

トルネードキングドラゴン・オメガの頼りになる隻腕である、トゥルーウィンドラゴン・トゥルー。
彼はレジェンズの中で、ずば抜けて最も忙しいレジェンズだった・・・。








「トゥルー」
「・・・シロン」

背後からの呼び声にトゥルーが振り向くと、一頭のカネルドウィンドラゴンが飛んで来ていた。
トゥルーの最愛の妻、シロンだ。
澄み切った青い瞳のカネルドウィンドラゴンで、事務処理仕事の要を務めている。

「どうしよう?」
「・・・何があった?」

目の前に降り立つなり首を傾げたカネルド・シロンに、トゥルーは優しい口調で聞く。
綺麗な青い瞳を少し潤ませて上目遣いで自分を見上げるカネルド・シロンは、こんな時だというのに、見惚れるくらいに美しい。
トゥルーを見て少し安心したのか、カネルド・シロンはホッとした溜息を吐き持っていた分厚い書類の束を抱え直した。
カネルド・シロンの管轄はウィンドラゴン族のみが棲むこの風の王宮の最奥で、全チームを纏めている言わば『王宮内での総司令官』の立場だ。
だからこそカネルド・シロンの『困った問題』は、ほぼ全て身内関係であり、トゥルーにはある程度想像がついた。

「幼児達が原因で幾つかのチームから苦情が来ている」
「・・・母親であるもう一竜のシロンはどうした?」
「もう一竜の私は書類分配配送チームの要だ。だから被害が広がったと言うべきか・・・」
「・・・父親は?」
「ランシーンは今日は清掃チーム、掃除チーム、洗濯チーム、整備チームへの助力で忙殺されている。無所属だから扱き使い易いと、相変わらず好評だ」
「そうか・・・被害内容は?」
「はい」

手に持っている書類の束から即座に取り出した一枚を受け取り、トゥルーは目を通しつつ、カネルド・シロンはその様子を見つつ、それぞれ苦笑する。
書かれている内容からカネルド・シロンが纏めたものだと分かると、穏やかな苦笑は柔らかい微笑へと変化した。

「もう『答え』は出ているのだろう?」
「あぁ。苦情書類を用いた『視察催促』だろう。これから見回りに行く」
「・・・今夜の帰りは遅くなるだろう。私を待たずに先に・・・」
「寝る、ことはしない。トゥルーが帰って来るのを待っている・・・どんなに遅くなっても、起きて待ってるから」
「・・・・・・シロン・・・・・・」

浮べていた苦笑を優しい微笑みに変えて愛しげにトゥルーを見詰め、カネルド・シロンはキッパリと言い切る。
あまりにも当然のように言い切られ、その優しい笑顔に見惚れ、トゥルーは胸が一杯になり言葉を失った。
体格差の関係上、どうしても上目遣いになってしまうカネルド・シロンに手持ちの書類を落とさないように片手で抱え直し、手を伸ばす。
腰に手を回して引き寄せると、すんなりと腕に納まる愛妻に愛しさが増し、耳に吹き込むようにして想いを告げるついでに甘噛みした。
真実しか話すことができないトゥルーは、たった一言に全ての想いを凝縮してカネルド・シロンに囁く。

「・・・愛している」
「んっ・・・私も・・・愛してる、トゥルー」
「・・・シロン・・・」
「・・・・・・この超絶に忙しいって時に、何故こんなところで休憩できる?そこのリーダー達?」

頬を染めて心底嬉しそうに微笑むカネルド・シロンにトゥルーも微笑み返し、頬に小さく口付ける。
少しの間見詰め合い、キスをしようとしていたトゥルーとカネルド・シロンにトゥルーの背後から低い声が聞こえ、2頭は固まった。
後数ミリで口先が触れ合うという、まさに絶妙としか言えないタイミングで現れたのは・・・

カネルドウィンドラゴンの中で唯一服装の意匠が若干異なる、カネルドウィンドラゴン・リベルタス。

主にトゥルーの補佐を担当しているが、リベルタスの管轄は外交。
光属性と闇属性に対してはそれぞれ専門とするカネルドウィンドラゴンがいるのでその分の負担は減っているが、苦労度合いが高いのは変らないだろう。
それでもリベルタスはあっさりと困難な外交をこなし、トゥルーのサポートをするほどの実力の持ち主。
いつも冷静沈着なリベルタスの声は・・・怒りでかなり低い声になっていた。

「あまりの忙しさで目が回りそうなのは、私だけじゃないはずだが・・・?」
「えっと・・・その・・・」
「・・・・・・」

両手にそれぞれ持った書類の山だけじゃなく、器用に尻尾でも分厚い書類の束を持ち、背後に雷雲を従えているように見えるリベルタス。
リベルタスの怒りの矛先はカネルド・シロンではなく、何故かトゥルーの方に向けられていた。

「状況を弁えないとは、貴方らしくもない。愛妻が愛しくて仕方が無いのは分かるが・・・」
「・・・・・・」
「いや、あの・・・トゥルーは」
「シロン殿、追加の書類だ」
「え?」

何とかトゥルーを庇おうと弁護しようとするカネルド・シロンの言葉を遮り、リベルタスは右手に持っていた書類の山を渡す。
自分が両手で持っていた書類の束の上に積まれ、ズシッと重い書類の山にカネルド・シロンは言葉を失った。
青い綺麗な目を丸くして硬直したカネルド・シロンにトゥルーとリベルタスは苦笑し、トゥルーは肩に手を置いて慰めの意を伝える。

「先程もう一竜(ひとり)のシロンが持って来た『視察催促』の書類だ。早く回った方が良いだろう」
「あ・・・あぁ。そうする・・・ありがとう、リベルタス殿・・・トゥルー、また後で」
「あぁ」

首だけ振り向いてトゥルーの頬に小さくキスをし、カネルド・シロンは飛び去った。
その飛び方がどこか頼りなさそうに見え、リベルタスは空いた手で頬を掻きトゥルーは苦笑を深めた。
カネルド・シロンの姿が廊下の先で見えなくなると、2頭は顔を見合わせて頷く。
互いに真剣そのものの表情で、先程までの和んだ雰囲気はすでになく、あるのは張り詰めた緊張感のみ。

「決裁は?」
「済ませた」
「了解。オメガ殿を連れ戻しに行ってくれないか?」
「分かっている」
「それからオメガ殿を迎えに行くまでにこの書類の決裁を済ませてくれ」
「・・・分かった」

トゥルーの持っていた書類の分厚い束を受け取り、リベルタスは自分の持っていた書類を全て渡す。
アッという間に書類の山を持たされ、トゥルーは思わず溜息を吐いた。
仕方が無いので微風を用いて書類の山の三分の二ほどを纏め、自分の尻尾で持つ。
残した三分の一を片手で持ち、空いた手でサインをし始めた。
内容を読み、頭に叩き込みながら吟味し、精度が高い先見の力をフル活用して、決定を下しサインをする。
歩きつつ書類を決裁し、サインをした書類は隣を歩くリベルタスが持つ書類の束の上に置く。
リベルタスは書類を落とさないように注意しながら、トゥルーに報告を始めた。
リベルタスの管轄が管轄なだけに報告の全てが重要なものなので、一言も聞き漏らさないように耳を欹てるトゥルーに内心で感心するリベルタス。
トゥルーはリベルタスの内心も知らず、歩きながら必死に書類内容と報告内容を頭に叩き込んでいった。




報告が全て終わるのと、トゥルーが書類の決裁を終えるのと、執務室の扉の前に着いたのは、ほぼ同時。




執務室の扉の前でリベルタスは前も見えない程の書類の山を持ち、手ぶらになったトゥルーは扉を開けて中に入る。
いつもなら穏やかな雰囲気に満ち溢れている執務室は、あちこちに所狭しと書類の山が詰まれ、各カネルドウィンドラゴンの机の上は崩れないのが不思議なほどに高い書類の山が幾つも詰まれている。
その書類の山で座っているカネルドウィンドラゴン達が見えないくらいだ。
窓は全て開け放され、絶えずコマンドウィンドラゴンのみで構成されている書類分配配送チームが分厚い書類の束を持って出入りし、何頭かは書類の山を交代しながら整理している。
だがそれより何より・・・書類の多さ以上に凄まじいのは・・・殺気。

そう、殺気

“忙しい”というレベルを通り越した、まさに激戦地並みの、プライドクラスくらいなら一瞬でソウルドールになる程の圧倒的な殺気。
トゥルーはその事務処理地獄風景に内心で小さく溜息を吐き、リベルタスはコマンドウィンドラゴンの一頭に持っていた書類の山を渡す。

「・・・すまない」
「いや、それよりも早くオメガ殿を」
「あぁ」
「それから、ついでに挨拶回りも頼む。我々は誰もがココから動けないからな」
「・・・分かった」

一時的にとは言え、それでもやはり戦線離脱することに変りは無く、思わずトゥルーは小さくリベルタスの背中に謝罪の言葉をかけた。
リベルタスはすぐに振り向いて苦笑し、外交の方の仕事を任せることによってトゥルーを安心させる。


戦線離脱するのではなく、別の厄介な仕事の方を片付けに行くだけなのだと。
だからトゥルーが罪悪感を感じることも、謝る必要も無いのだと。


言葉にせずとも伝わってくる無上の信頼をリベルタスから、そしていつの間にか書類の山の向こうから顔を出している残りの4頭の苦笑を浮べているカネルドウィンドラゴン達から向けられ、トゥルーは秘かに感奮した。
静かに頷き踵を返して飛び去ったトゥルーを見送り、リベルタスは大量の書類の山が積まれている自分の席へと戻る。
オメガとトゥルーのトップ2頭が帰って来るまでに、可能な限り採決待ちの状態にしてしまおうと、内心決意しながら・・・






一方、廊下の窓から竜王会議の場所へ飛び去ったトゥルーは・・・着いた早々に溜息を吐いた。
火の竜王・ジェクトが水の竜王・アクロスに叱られ、土の竜王・タルタルーガは激怒中のアクロスを必死で宥め、闇の竜王・パギダと風の竜王・オメガが睨み合い、光の竜王・ジュエルが心配そうに2頭を見守っている。
その状況だけでだいたい事情を察したトゥルーはオメガの後頭部近くへと飛び、声をかけた。

「・・・・・・」
「・・・オメガ殿・・・」
「トゥルーか・・・分かってる・・・んだが・・・」

天真爛漫なオメガが、真剣な表情で向かい合う相手パギダを見る。
いや、睨み据えると言っても過言ではないだろう。
パギダもオメガをジッと見つめており、互いに微動だにしない。
それにトゥルーは深く溜息を吐いた。


恒例の行事である、竜王が全員揃う竜王会議。
この日だけは会議ではなく、互いに挨拶をするだけに集まる。
各属性によって挨拶方法が異なるため、一番平和的な方法である風属性と光属性の方法で挨拶を交わすことになっている。
つまり、ハグと握手だ。

そして・・・オメガとパギダは顔を合わせる度に喧嘩をするほど、互いを苦手としている。
パギダはともかく、オメガがパギダを苦手としている、と言った方が正しいだろう。
毎年毎年、この挨拶で最も困難なのがこの2頭の挨拶なのだ。


今にも噛みつかんばかりのオメガと、体格差の都合上静かに無表情で見下ろすパギダ。
膠着状態の2頭にトゥルーは再び溜息を吐くと、心配そうに見守っているジュエルに事情を聞いた。

「ジュエル殿・・・」
「ん?あぁ・・・実は、ジェクトがオメガとのハグの時にセクハラをしてしまって・・・」
「それでオメガ殿があんなに殺気立ってるのか・・・」
「後はオメガとパギダがハグし終われば、今日の挨拶は全部終了するのだけど・・・少し前からずっとこの調子で・・・」
「・・・そうですか・・・」
「まぁ、怒ってるオメガも毛並み立ててる子猫みたいで可愛いから、見てて飽きないけれど・・・今日は早く帰らないと、それぞれの部下達が大変だろうし・・・」

トルネードキングドラゴンを子猫呼ばわりできるのは、この世でジュエルとパギダだけだろう。
そう内心で思いつつトゥルーはオメガの肩に乗り、オメガの注意を引いた。

「トゥルー?」
「オメガ殿、気持は理解できるが、早く終らせてほしい・・・皆、貴方の帰りを心待ちにしている」
「あぁ・・・書類が山積みになっているんだろ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・覚悟を決めてはいるんだが・・・」

オメガは肩の静かに頷いたトゥルーから視線をパギダに戻し、しばらく睨み据えた後、ゆっくりと肩の力を抜いた。
パギダはゆっくりとオメガに手を伸ばしつつ、ニヤリと笑う。

「もう抱いても良いのか?子猫ちゃん?」
「誰が子猫だっ!?サッサとハグしてサッサと終らせろ!」
「分かった」

がるるる〜っと噛みつくのを必死で我慢しているオメガの肩からトゥルーが飛び立ったのを確認し、パギダはオメガを抱き上げ抱き締める。
すっぽりと腕に収まるオメガのサイズが抱き心地が良くて、密かに気に入っていたりするパギダ。
心から愛しているのはジュエルだが、オメガは愛玩用と言うべきか・・・と内心で思いつつオメガの抱き心地を堪能しているパギダに、オメガはキレた。

「いつまで抱き締めてんだ!?もう良いだろう!?放せ!!
「やれやれ・・・しょうがない奴だ」
「お前がな」

ジュエルの手前、渋々とパギダはオメガを開放しジュエルに苦笑する。
パギダの苦笑の意味が分かったジュエルも、オメガの背後で苦笑し小さく頷く。
毛並みを立てて頬を染めてパギダを睨むオメガは体格差の問題上どうしてもパギダに対して上目使いになってしまい、パギダにとっては可愛いものでしかない。
湯気を立てて怒るオメガを無表情で楽しむパギダにトゥルーは溜息を吐き、怒りのあまり必殺技の準備をするオメガの目の前に移動し、鼻先を撫でた。

「トゥルー!?」
「オメガ殿、挨拶は済んだのだろう?急いで帰ってくれ」
「しかし・・・」
「カネルド達がオメガ殿の帰りを心待ちにしている。だから急いで帰ってくれ」
「・・・分かった」

渋々とパギダへの攻撃を諦め、オメガはジュエルとタルタルーガに視線で目礼すると、未だアクロスからお説教をされているジェクトと激怒中のアクロス、大の苦手なパギダを綺麗に無視して飛び去った。
一瞬にして姿を空の彼方へと消したオメガを見送った後、トゥルーはジュエル、パギダ、タルタルーガに順番に挨拶し、アクロスとジェクトに対してはタルタルーガに止められたので挨拶を諦める。
それからそれぞれの竜王の右腕的存在を訪ねるために、その場から静かに飛び去った。
背後でジェクトの悲鳴が聞こえた気がしたが、意識的に聞き流し振り向かないでおいた。








一方その頃、カネルド・シロンは・・・

「シロン殿、大丈夫か?」
「・・・なんとか・・・な・・・」

精根尽き果てていた。

全チームへの視察が終え、それぞれへの指示を出し終えた頃には体力的に限界を迎えており、そこにさらに部屋に戻ってからは事務仕事処理地獄の仲間入りをしていたからだ。
書類分配配送チームのコマンドウィンドラゴン達はすでに決裁済みの書類を持って、全員が出払っており、執務室に残されているのはカネルドウィンドラゴン6頭のみ。
立ち上がろうとした瞬間にふらつき倒れかけたカネルド・シロンをとっさに支えて助けたスカイは、心配そうにカネルド・シロンの顔を覗き込む。
明らかに疲労困憊状態のカネルド・シロンを見かねたのか、他の4頭も次々と心配そうな声をかけた。

「少し休むか?」
「少々ならば休んでも大丈夫だからな?」
「少しでも休んだ方が良いだろう」
「シロン殿の分を少し私に回して・・・」
「ダメだ。私は大丈夫だ・・・スカイ、治癒を」
「・・・分かった」

シロンの体調を心配したヴィントが自分の負担を増やそうとしたのを遮り、カネルド・シロンは自分を支えているスカイに治癒を頼む。
現存する8頭のカネルドウィンドラゴンの中、たった1頭だけ光の力を持っているカネルドウィンドラゴンであるスカイならば、ストームキングドラゴンに匹敵するほどの治癒能力を持っている。
だが、どんな状態に対しても効果を発揮するストームキングドラゴンの回復魔法と違い、治癒は負傷や病に関しては絶大の効果を発揮する反面、疲労に対してはあまり効果を発揮しない。
カネルド・シロンもそのことを熟知しているが、それでもしないよりはマシだと判断し、スカイもカネルド・シロンの意思を酌んで治癒を施した。
一瞬だけカネルド・シロンとスカイの身体が柔らかな白い光に包まれたかと思うと、穏やかでかなり微かな微風が2頭を包み込むように吹く。
若干疲労の色が薄くなったカネルド・シロンは深呼吸すると、礼を言ってスカイから離れ自席へと戻った。

「ありがとう、スカイ」
「あまり無理をするな・・・シロン殿は・・・」
「あぁ・・・分かっている。皆も心配をかけてすまない」

カネルド・シロンの謝罪に苦笑し、それぞれが再び仕事を再開する。
再開して間も無く殺気に満ちた空間にカネルド・シロン自身も内心で苦笑し、密かに嘆息した。


カネルドウィンドラゴンとしての体力が、カネルド・シロンには無い。
それは禁断の方法を用いて1頭が3頭に分かれたという弊害みたいなもの。
力に優れたランシーン、スピードに優れたシロン、それぞれがカネルド・シロンから分かれる時に力を奪っていった。
カネルドウィンドラゴンとしての能力はあるが、体力的にはコマンドクラスより少々上回る程度しかない、カネルド・シロン。
それを知っているのはオメガやトゥルー、そして同じカネルドウィンドラゴンであるカネルド、リベルタス、ヴィント、スカイ、リヒトの5頭のみ。
トップシークレットの中でも極秘なものだ。


そのことを知っているからこそ、カネルド・シロンは皆の優しさが嬉しく、同時に申し訳ない気持ちになる。
だからこそ多少無理をしてでも皆の力になりたいと思っており、気力だけで動くことも多い。
今回も倒れる寸前まで力を振り絞ろう・・・と、カネルド・シロンが思ったその時、扉をバンッと勢い良く開けてオメガが入って来た。

「おわっ!凄い量だな〜・・・ただいま」
「おかえり、オメガ」
「早速ですが」
「決裁を」
「すぐにして下さい」
「分かった、分かった!だからそう殺気立つなって」

苦笑しつつ自分の席に座り、大量の書類の山を片っ端から目を通し片付けていくオメガ。
流石トルネードキングドラゴンというべきか、書類に目を通しながら次々に指示を出す。

「カネルドとヴィントは風呂に入って来い。さっき連絡しておいたから今頃は準備ができているはずだ」
「風呂?」
「え?」
「温かい湯に浸かって少しリフレッシュしろ」
「「・・・了解」」
「シロンとスカイは自室に戻って仮眠してくるんだ。少し休め」
「はい?」
「しかし・・・」
「文句は聞かない。リヒト、シロンを部屋まで送ってスカイを寝かせて戻って来るついでに、カネルドとヴィントにも風呂から出たら自室で仮眠しろと伝えろ」
「「「了解」」」

渋々部屋から立ち去るカネルドウィンドラゴン達を静かに書類越しに見送り、オメガは小さく溜息を吐いた。
リベルタスは苦笑しつつオメガに話しかける。

「オメガ殿?」
「入った瞬間に全員の疲労度合が分かったからな・・・殺気が扉越しにまで伝わるほどだったし」
「・・・・・・」
「ったく、倒れたら元も子もないんだってのに・・・なぁ?」
「・・・オメガ殿・・・」

オメガの優しい苦笑にリベルタスは言葉を奪われ、返事ができない。
こんな状況に陥っていてさえ、この余裕・・・やはりキングドラゴンなのだと、心底から感心する。
無言で自分を見上げるリベルタスにオメガは不敵な笑みを向け、力強く言い放った。

「ここにある書類、大方が決裁待ちの状態なんだろ?」
「はい」
「なら、オレとリベルタスにリヒトがいれば事足りるだろう。トゥルーが挨拶回りから帰って来れば、倍速で終わる。サッサと終らせるぞ!」
「了解!」

普段は無邪気に城出をして仕事をサボるオメガだが、本気を出した時の能力は非常に凄まじい。
そしてオメガの言葉には常に一切の嘘が無い。
リベルタスは今まで以上に奮然と事務仕事処理を再開し、戻って来たリヒトもリベルタスと同様に再開した。




数時間後・・・




自室のベッドの上で眠っていたカネルド・シロンは、突然の衝撃に驚愕して目を覚ました。
何かが自分に覆い被さっていて、身動きが取れない。
思わず一瞬恐怖で身が竦んだが、耳元に聞こえた疲れきった声に、カネルド・シロンは安心して全身の力を抜く。

「ただいま・・・シロン」
「トゥルー、おかえり・・・お疲れ様。それから・・・んっ」

後に続く言葉を察したトゥルーはカネルド・シロンに口付け言葉を奪う。
少し強引なキスに翻弄されてカネルド・シロンの瞳が潤み始めた頃、トゥルーはキスを止め、カネルド・シロンの首筋を舐め始めた。

「・・・オメガ殿から『仮眠しろ』と指示があったと聞いた。だから謝る必要は無い」
「ふ・・・ぁっ・・・で、でも・・・んんっ」
「それにこれから疲れるだろうから、休んでいて正解だ」

首筋から鎖骨へ鎖骨から首筋へと舐め、耳を甘噛みして囁くトゥルーにカネルド・シロンは頬を真っ赤に染めた。
月明かりの中で不敵な笑みを浮かべて自分を見つめるトゥルーは、筆舌に尽し難い程に魅惑的で・・・魅了される。
魅入られたかのようにゆっくりと両手を伸ばし、そっとトゥルーの頬を包み込むように触れるカネルド・シロンに、トゥルーは瞳を細めた。
優しく片手の手首を掴み、小さく掌へとキスを贈る。
とろんとした瞳で自分を見るカネルド・シロンにトゥルーは再び口付けようとし・・・脱力した。

『トゥルー!すぐに領域境へ行け!!』

オメガからの連絡が入ったからだ。
トゥルーも翼を動かし風を使い返事を返す。

『何故?』
『スピリチャルとネクロムの両方に睨みが利くのはお前くらいだろうが!』
『ならばスカイとリヒトを行かせれば良い』
『カネルドウィンドラゴンは全員休みだ!!でないと倒れるからな・・・だからお前が行って仲裁して来い!』
『・・・・・・』
『色々思うところがあるんだろうが、とにかくすぐに向かえ!!』
『・・・(溜息)・・・』
『王命だ!!風の領域の平和を守れ!すぐに行け!!』
『・・・了解した』

トゥルーは途中で脱力のあまりカネルド・シロンの上に突っ伏し、ギュ〜ッとカネルド・シロンを抱き締めながら渋々了承した。
ちなみに風で行われる通信はコマンドクラス以上のレベルの者には筒抜けであるため、カネルド・シロンにも通信内容はしっかり聞こえていた。

「トゥルー・・・気をつけて」
「あぁ・・・シロン、私の帰りを待たずに休むんだ」
「・・・・・・分かった」
「良い子だ・・・行って来る」
「いってらっしゃい」

小さく寂しそうに微笑んで頷いたカネルド・シロンの頬にトゥルーは口付けると、静かにベッドから退き窓へと向かう。
名残惜しそうに振り向くトゥルーにカネルド・シロンは優しく微笑んで、小さく手を振った。
片手を上げてそれに応えたトゥルーは、開けた窓から月の輝く夜空へと飛んだ。
カネルド・シロンはシーツだけを身体に羽織って立ち上がり、そっと開いた窓辺へと佇む。
夜空に吸い込まれるようにして小さく消えていく夫の後姿を、寂しそうな切ない表情で見送っていた・・・。








結局、トゥルーは風の領域内だけでなく光と闇の領域境にまで行かなくてはならなくなり、休む暇も無く飛び続けなければならなくなった。
トゥルーの仲裁によって解決した諍いは数知れずだが、その諍いを起こした張本人達は口を揃えて異口同音に『二度と馬鹿なことはしない』と断言したとか。




静かに密かにブチキレたトゥルーの仲裁方法・・・知らないほうが幸せだろう。




これもまた、一つのある意味平和な日々の一つ・・・かもしれない。










End.



PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル