【Ever after】








しんしんと静かに雪が降り続ける、風の無い夜。
空一面は雪雲で覆われ、星一つ見ることができない。
怖いくらいに静かな、静かな夜・・・。




深い森の中を、一頭のカネルドブレイズドラゴンが必死に動き回って探しものをしていた。
己の最も大切な存在であるウィンドラゴンを見失ったからだ。


仔竜の時から心底愛し慈しんで育ててきた、ウィンドラゴンのシロン。
今では立派に成竜になり、若き風属性のレジェンズのリーダーになっていた。


成竜になってもクラス(格)が上がっても立場が変わっても、シロンはグリードーの傍から離れないように心掛けていた。
グリードーの方も片時もシロンを手放さないよう、ちょっとでも見失わないよう、害虫共に奪われないように常に気を配っていた。

なのにグリードーがシロンを見失ったのは・・・シロンが、自身が“トルネードキングドラゴンとしてレジェンズの頂点に君臨する存在”だと、知ってしまったから。
何よりも自由自在に空を翔ることが好きで、束縛されることが大嫌いで、いつまでも好奇心旺盛なやんちゃ坊主であるシロン。
それと同時に誰かに強制を強いることをとても厭うシロンには、その事実はとても衝撃的で哀しいものだった。

思わず我を忘れて飛び去ってしまうほどに・・・





「どこにいるんだ・・・」


かなり長い間暗い森の中を歩き回ったが、愛しい姿を見つけることができない。
イライラムカムカと焦燥に駆られる俺様の炎の翼から、時々飛び散る火の粉が木々に火をつけ土属性を慌てさせた。
俺様の知ったことじゃねぇが。
時々襲い掛かってくる雑魚共が煩わしくて腹立たしく、片っ端から倒してソウルドールにしてやった。


「ぅおおおぉぉぉっ!!」
「邪魔だ」


今度はオーガが一頭棍棒を振りかざして来やがり、俺様の軽い一撃でソウルドールになった。

そういえば、シロンは長時間空を飛んでも疲れないんだったな・・・となると、探す場所を変更するか。

ふと思い出したシロンの好きな場所を見上げ、勢い良く地を蹴って飛立った。
木々の間を擦り抜けた時に翼の炎で火をつけたみてぇで、森の上に出た時には俺様がいた場所が盛んに燃え上がっていた。

まぁ、誰かが何とかするだろう。

激しい炎に一瞥をくれた後、夜空に広がる雪雲を目指して飛んだ。







「・・・シロン」
「・・・っ!?・・・ぐりーど〜・・・?」


厚い雲を突っ切って雲の上に出ると、金色の煌きが目に入り意外にあっさりと愛し仔の姿を見つけられた。
ウィンドラゴンバーサクモード特有の黄金色に輝く軽鎧が目印になったことに、少々ホッとした。
少し舌足らずに俺様の名を呼んだシロンは、泣き腫らした潤んだ瞳を零れ落ちそうなくらいに真ん円に丸くして驚いていた。
驚いている隙に一気に近付き強引に抱き締めて、逃がさないように強く腕に力を込めた。


「どうして・・・ここが?」
「・・・何故泣いていた?」


シロンの質問には敢えて答えずに、その涙の理由を聞いた。
大体想像はつくが、それでもシロン自身からの説明が無いと分からない。
俺様の質問にシロンはハッとしたように瞳を見開くと、また目に涙を浮べて視線を逸らした。
それでもシロンの両手は俺様の胸元を縋るように握っているのだから、可愛いことこの上ないが。
促すことはせずにただ黙ってシロンの返答を待っていると、聞き取り難いくらい小っさな呟きが聴こえた。


「・・・・・・リ・・・・・・て・・・・・・」
「ん?」
「・・・僕は・・・グリード〜と・・・もう・・・一緒にいられない・・・」
「・・・・・・」
「僕と一緒にいたら・・・グリード〜まで・・・だ、から・・・」
「・・・んなことはどうでも良い」
「えっ!?」


驚いて振り向いたシロンの涙を舐め取って、ニヤリと笑った。
相変わらずシロンの涙は程好い俺様好みの甘さだ。


「シロン以外の奴のことなど知るか。俺はシロン、お前が俺の傍にいればそれで良い」
「で・・・でもっ!僕は・・・」
「お前がトルネードキングドラゴンになったら、今度は俺がお前の傍から離れない。前にも言ったはずだ、『一生手放さない』ってな」
「グリード〜・・・でも・・・僕が、風の竜王になってしまったら・・・もう・・・」


涙で潤んだ瞳で俺様を上目遣いで見詰めていたシロンは、目に涙を溢れさせながら俺様の胸元に顔を埋めた。
震える涙声で途切れ途切れに呟くその言葉と一緒に、一生懸命に俺様の胸元を掴んでいる両手も小さく震えていた。
成竜になったとはいえ、俺様よりも一回り小さいシロンはすっぽりと腕の中に納まって、抱き心地が良い。

出会った頃は俺様の半分くらいしか大きさが無かったのが・・・成長したものだ。

ここで俺様が次代のヴォルケーノキングドラゴンだと言ったら、後での楽しみが無くなる。
ならばここは言い包めずに思いっ切り泣かせてやるか・・・シロンの涙は美味いし泣き顔も可愛いしな♪たまには良いだろう。


「それがどうした?」
「どうしたって・・・だって!竜王は同種族以外とは一緒に暮らせないんだよ!?」
「腹立つ伝統や面倒な掟は変えれば良い」
「変えればって、そんな簡単にはいかないよ!・・・それに棲む場所だって・・・」
「確かに成層圏にずっといるのは・・・正直ちとキツイが。鍛えれば大丈夫だ」
「・・・グリード〜・・・でも・・・」
「雑魚の言うことなんか気にするな、シロン」

それこそ『ロリコン』だの『ショタコン』だの・・・シロンと共に過すようになってから散々言われたからな・・・慣れるくらいに。
今更何を言われてもかまわねぇし、何とも思わねぇ。

「雑魚って・・・」
「雑魚は雑魚だ。シロンと竜王以外は俺にとっちゃ全部雑魚だぜ」
「そんなこと言っちゃダメだよ・・・でも・・・グリード〜らしいや」


胸元で小さく苦笑したシロンの頭をそっと撫でてやった。
たぶんたくさん泣いた後だったんだろう、予想外なことにシロンは泣かなかった。
暫く小さく笑ったシロンは、また俺様の胸元に顔を埋めて呟いた。


「・・・本当に良いの?僕と一緒だと物凄く危険だよ?」
「とっくの昔に、お前と生きることを決めた時に既に覚悟はできていた。これから多少危険が増えても気にする程じゃない」
「・・・・・・本当?」
「何度も言わせるな。『愛している、シロン。一生俺の傍にいろ』」
「・・・グリード〜・・・」
「『何があっても俺が守り抜いてやる』、何度も言い聞かせただろうが。忘れるな」
「うん・・・グリード〜・・・ありがとう」


そう言って顔を上げて見上げて来るシロンに、思わず息を呑んだ。
染まった頬にうるうると濡れた丸い大きな瞳で上目遣いで心底嬉しそうに微笑むシロン。
一瞬理性が飛びそうになったが、なんとか持ち堪えて不敵な笑みを浮べた。
いつまで経っても可愛い言動をするシロンが、愛しくて仕方が無い。
シロンの柔らかな頬を少し舐め、慌てるシロンに笑みを深めた。


「グッ、グリード〜!?」
「そろそろ寝床を探しに行くぞ・・・今夜は寝かさない、覚悟しろ」
「え?・・・あ・・・ええぇぇ〜〜〜〜っっ!?」


柔らかいシロンの耳に直接吹き込むように告げると、シロンはきょとんとした表情を浮かべ、一呼吸後に真っ赤になって驚いた。
首元まで真っ赤になったシロンにニヤリと笑うと、砂漠地帯の方へ向けて飛び始めた。

あそこなら風レジェンズのジジイ共は来ないだろうから、シロンも安心して眠れるだろう。

シロンは俺様の首にしがみ付いてきて、自身の翼をしっかりと折りたたんだ。
落とさないようにシロンを抱える形を横抱きに変えると、シロンは少し嬉しそうなにかんだ微笑を浮べた。
流石“ウィンドラゴン”と言うべきか・・・とても綺麗で可愛い成竜になったシロンの笑顔は、何度見ても悩殺ものだ。
シロンの魅力に堕ちた奴らを駆除する俺様の苦労は半端じゃない。

それでもこの愛しいシロンのためなら・・・俺様はどんなことでもしてやるぜ!


「ねぇ・・・グリード〜」
「ん?」
「ずっと、僕と一緒にいてね・・・?」
「無論だ」


可愛らしく首元で小さく呟いたシロンの言葉に応えて優しく微笑んだ。
シロンは心底嬉しそうに微笑むと、俺様の首元に顔を埋めてしまった。
暫くすると穏やかな寝息が聞こえてきて、安心して眠ってしまったのだと知った。
目的地に着いたら寝込みを襲う予定だし、それまで寝かせてやろう。



『ずっと一緒』



幼い頃から何度もシロンが言っていた言葉が、こんなに強い想いを宿す日が来るなんてな・・・。

腕の中に最愛の者を抱く幸福を感じながら、星空の下と雪雲の上の神秘的な空間を暫く飛び続けた。




その夜、降り止んだ雪雲の隙間から一頭のブレイズドラゴンが上空を飛ぶのが見えた者は、我が目を疑ったとか。








新たな年が始まる日、終わりと始まりが出逢う日にその“約束”はなされた。
この遣り取りを秘かに見守っていた光の竜王が、頭痛を覚えて頭を抱えたことを知る者は・・・誰もいない。
まるで2頭を助けるかのように、ただ優しく風が吹いていた・・・。










End.



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